飛鳥の明日香の里を(明日香村)/コラム/あすかルビー ― 冬の明日香は、いちごの季節でもある
公開日 /更新日
古墳と宮跡ばかり見て歩くと気づきませんが、この村の冬はビニールハウスの季節です。奈良で生まれた大粒のいちごが、そのなかで実っています。
冬に明日香村を歩くと、刈り取りのすんだ田のあいだに、白いビニールハウスが点々と並んでいるのが目に入ります。
多くはいちごのハウスです。この村を含む奈良県は、いちごの産地でもあります。
そして、そこで作られている主力品種のひとつが、あすかルビーです。
あすかルビーは、奈良県農業試験場で育成されたいちごです。品種登録されたのは2000年(平成12年)。
掛け合わせは「アスカウェイブ」と「女峰(にょほう)」。アスカウェイブも奈良県が育成した品種で、その系統を受け継いでいることになります。
品種登録上の名はアスカルビー、流通する名はあすかルビー。どちらも、この土地の名から来ています。
名前の由来は、その色です。
粒は大きく、丸みのある円錐形。果皮はつやのある濃い赤で、切ると果肉まで赤みを帯びています。断面が白い品種が多いなかで、ここが分かりやすい特徴です。
果肉は少しかためで、果汁が多い。甘みと酸味のバランスがよく、甘さだけが前に出ないタイプです。
全国のスーパーで見かけることは、ほとんどないと思います。
奈良県内での消費が中心だからです。2021年の時点で、県内の作付面積のおよそ3割をあすかルビーが占めており、古都華と並ぶ主力になっています。それでも県全体の産地としての規模は大きくないため、県外へはあまり回りません。
出回るのは12月ごろから5月ごろまで。冬から春にかけてが季節です。
奈良県は、いちごの品種を続けて生み出してきた県でもあります。
アスカウェイブがあり、そこからあすかルビーが生まれ、のちに古都華(ことか)が登場しました。さらに珠姫(たまひめ)、奈乃華(なのか)と続きます。
それぞれ性格が違います。あすかルビーは大粒で酸味もあるタイプ、古都華は濃厚な甘みのタイプ、といった具合です。産地で食べ比べると違いが分かります。
明日香村では、いちご狩りができます。
村の地域振興公社が関わる施設のほか、いくつかの農園が受け入れています。時期はおおむね12月末から5月ごろまでですが、その年の生育や予約状況によって変わります。予約が要る場合がほとんどです。
詳しいことは、飛鳥びとの館(飛鳥総合案内所)や村の観光案内で確認するのが早いと思います。
冬の明日香は、古墳を歩くには落葉して見通しがきき、いちごの季節でもあります。組み合わせとしては悪くありません。
ひとつ、この村ならではの話があります。
明日香村では、建物の高さや屋根の形、色に細かい基準があります。明日香法にもとづく規制で、この村の景色が保たれている理由でもあります。
白いビニールハウスは、その景色のなかでは目立つものです。それでも並んでいるのは、これが農業だからです。
景観を守るということは、建物を抑えることだけを指しません。田が耕され、ハウスが建ち、収穫があり、それで暮らしが成り立つ。その循環が止まれば、守るべき景色のほうが先に消えます。
棚田も、彼岸花の畦も、同じことです。人が作り続けているから残っています。ハウスの白は、その証しでもあります。
村の直売所や、道の駅、観光案内所の周辺で、季節には店頭に並びます。
あすかルビーは果肉がややかためとはいえ、いちごです。長く持つものではありません。買ったその日のうちに食べるつもりで選んでください。
古墳を見て、宮跡を歩いて、最後にいちごを買って帰る。千三百年前の話ばかりのこの村で、いま作られているものを持って帰るというのも、悪くない締めくくりだと思います。
RELATED SPOT

あすかびとのやかた
道の駅飛鳥の観光案内所。散策の起点に。

いなぶちのたなだ
日本の棚田百選。秋には巨大な案山子が立つ。

あまかしのおか
飛鳥を一望する丘。蘇我氏の邸宅があったと伝わる。
RELATED COLUMN