飛鳥の明日香の里を(明日香村)コラムおんだ祭 ― 田を作り、夫婦になるところまで演じる

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おんだ祭 ― 田を作り、夫婦になるところまで演じる

公開日

2月の第1日曜、飛鳥坐神社の境内が人で埋まります。天狗が参拝者の尻を叩き、田を耕し、最後は夫婦の営みまで演じてみせる祭りです。

冬のいちばん寒い時期に

「飛鳥社」の扁額を掲げた飛鳥坐神社の鳥居と、社殿へ続く石段
飛鳥坐神社。鳥居をくぐると石段が正面に伸びる

おんだ祭が行われるのは、毎年2月の第1日曜です。田はまだ何も植わっていない、いちばん寒い時期にあたります。

会場は飛鳥坐神社。ふだんは訪れる人もまばらな境内が、この日だけは立錐の余地もないほど埋まります。奈良県の無形民俗文化財に指定されています。

まず、叩かれる

祭りが始まると、天狗、翁(おきな)、そして牛の面をつけた役が境内に出てきます。

手にしているのはササラです。先を細かく割った竹の棒で、これで参拝者の尻を叩いて回ります。

痛いのですが、これは歓迎される行為です。叩かれることで厄が落ち、その年を無事に過ごせるとされます。追いかけられて逃げ、笑い声が上がる。祭りはこの騒ぎから始まります。

田を作る

太鼓が鳴ると、本殿前の舞台で農作業の所作が始まります。

牛を追って田を起こし、土をならし、種を蒔き、苗を植える。実際の田仕事の順に、一つずつ演じていきます。

牛はもちろん作り物で、人が入っています。言うことを聞かずに暴れたり、脇道にそれたりする。そのたびに見物から笑いが起こります。

この時期に田の所作を演じることに意味があります。これから始まる一年の農作業を、先に一度やってみせているのです。

そして、夫婦になる

田植えが終わると、場面が変わります。

天狗とお多福が登場し、出会い、嫁入りをし、夫婦の営みまでを演じます。あからさまな所作で、境内は笑いに包まれます。

最後に、二人が使った紙が撒かれます。福の紙と呼ばれるもので、これを受け取って持ち帰ると子宝に恵まれるとされます。手を伸ばし、奪い合うようにして取る。祭りはここで最高潮になります。

なぜ、こういう祭りなのか

初夏の稲渕の棚田。水を張った段々の田と、谷の奥に続く集落と山並み
水を張った初夏の棚田。祭りで演じられるのは、この仕事のはじまり

外から見れば奇祭です。実際、西日本三大奇祭のひとつに数えられることもあります(もっとも、この種の括りに定説はありません)。

ただ、内容そのものは奇をてらったものではありません。予祝(よしゅく)と呼ばれる考え方にもとづいています。

これから起きてほしいことを、先に演じてしまう。そうすれば、そのとおりになる。田植えの所作も、夫婦の所作も、同じ論理の上にあります。

稲が実ること。人が生まれ、家が続くこと。農村にとって、この二つは切り離せない願いでした。田を作る所作と夫婦の所作が一続きに演じられるのは、当然の組み合わせだったことになります。

境内の石とも、つながっている

飛鳥坐神社の境内には、陽石(ようせき)と呼ばれる石が数多く並んでいます。男性を象った石です。

はじめて見ると驚きますが、むすびの神、子授けの神としての性格をそのまま表したものです。おんだ祭の内容とまったく同じ方向を向いています。

祭りだけを切り取ると異様に見えても、この神社全体を見れば筋が通っています。

各地にある「おんだ」

おんだ祭は、飛鳥だけのものではありません。御田祭、田遊び、御田植神事。名前は違っても、年の初めに田仕事を演じる行事は各地にあります。

多くは田起こしから田植えまでで終わります。飛鳥のものが知られているのは、そこから先の夫婦の所作まで含めて、省略せずに演じ切るからです。

かつては各地にあった形が、ここには残っている、という見方もできます。

村の行事は、ほかにもある

この村には、いまも続く年の初めの行事がいくつかあります。

1月には、稲渕で男綱、栢森で女綱が架け替えられます。悪いものが村へ入らないようにする勧請縄で、材料はその年の棚田から出た藁です。

2月のおんだ祭、1月の綱掛神事。どちらも、田がまだ動いていない時期に行われます。農作業が始まる前に、その年の無事を先に願っておく。同じ季節の並びのなかにあります。

見に行くなら

毎年2月の第1日曜、午後に行われます。開始時刻は年によって変わることがあるので、神社や村の案内で確認してください。

境内は狭く、たいへん混みます。石段の上からのほうが見やすいという人もいますが、早くから場所が埋まります。

冬の山あいです。じっと立って見ることになるので、しっかり防寒してください。

ササラで叩かれるのは災難ではなく、いいことです。逃げるのも含めて祭りの一部なので、あまり身構えずに。

撮影する場合は、周囲の視界をふさがないように。地元の人にとっては、見物ではなく自分たちの神事です。

近鉄橿原神宮前駅から周遊バス「飛鳥大仏前」下車、徒歩約5分。飛鳥寺のすぐ近くです。

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