飛鳥の明日香の里を(明日香村)コラムジャンボ案山子 ― 棚田に立つ、その年の日本

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ジャンボ案山子 ― 棚田に立つ、その年の日本

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稲渕の棚田には、毎年秋になると見上げるほど大きな案山子が立ちます。題材はその年の話題から選ばれ、二度と同じものは立ちません。

9月の稲渕は、彼岸花で知られています。ただ、棚田の道を歩いていると、もうひとつ目に入るものがあります。

田のなかに、人の背丈の何倍もある案山子が立っています。

2026年(最新)は高市総理

稲渕の棚田に立つジャンボ案山子。黒い髪に真珠のネックレス、紺の上着と色とりどりの裾
2026年のジャンボ案山子。奈良県出身で、日本初の女性の内閣総理大臣となった高市早苗氏

2026年のジャンボ案山子は、高市早苗総理大臣です。

黒い髪に、真珠のネックレス。特徴をよく捉えていて、遠目にも誰だか分かります。

奈良県の出身で、2025年に日本で初めての女性の内閣総理大臣になった人です。地元から総理が出た年に、その総理が棚田に立つ。題材の選び方としては、これ以上ないほど素直です。

ついでに言えば、この村は、日本で最初の女帝が即位した場所でもあります。592年、推古天皇が豊浦宮で位に就きました。千四百年あまりを隔てて、初めての女帝の土地に、初めての女性総理の案山子が立っている。

2025年はみゃくみゃく

青い体に赤い目の連なりを頭に載せた、みゃくみゃくの形をしたジャンボ案山子
2025年のジャンボ案山子。大阪・関西万博のキャラクター、みゃくみゃく

2025年に立ったのはみゃくみゃくでした。大阪・関西万博のキャラクターです。

青い体に、赤い細胞のような輪。あの独特な形を、棚田の真ん中で立体に起こしてあります。

さかのぼれば、2022年には大谷翔平選手が立ちました。赤いユニフォームの胸には ASUKA の文字が入っています。

題材は、その年に日本で何が話題だったかで決まります。並べて見ると、年表のようになります。

明るい話題ばかりではない

御陣乗太鼓の姿をしたジャンボ案山子。青い鬼の面をかぶり、海藻のような髪を垂らして太鼓の前に立つ
能登半島地震のあとに立った案山子。輪島に伝わる御陣乗太鼓の姿

2024年の元日に、能登半島地震が起きました。

その年、棚田には御陣乗太鼓(ごじんじょだいこ)をかたどった案山子が立ちました。輪島市名舟町に伝わる郷土芸能で、鬼の面をかぶり、髪を振り乱して太鼓を打ちます。被災した能登の、その土地の芸能です。

太鼓の胴には「御陣乗太鼓」と書かれています。面も、垂らした髪も、そのままに作ってある。

その年に何があったかを写すというのは、明るい話題を選ぶということではありません。遠い土地で起きたことを、棚田の上に立てて示す。そういう年もあります。

毎年、作り直される

笑福亭鶴瓶さんをかたどったジャンボ案山子。眼鏡をかけ、虫取り網と虫かごを手にしている
2023年のジャンボ案山子、笑福亭鶴瓶さん。網と虫かごは、その年のテーマに合わせたもの

ジャンボ案山子は、使い回されません。毎年、一から作られます。

骨組みを組み、顔を作り、布を張る。雨風にさらされる場所に、数か月立たせるものです。手間のかかる仕事を、毎年やり直していることになります。

だから、去年の案山子はもうありません。写真のなかにしか残らない。同じものは二度と立たない、というのがこの行事の性格です。

案山子ロード

ジャンボ案山子はひとつですが、棚田の道沿いには一般から寄せられた案山子がずらりと並びます。案山子ロードと呼ばれています。

コンテストになっていて、入選作品は9月下旬に開かれる「稲渕棚田案山子祭り」で、来場者の投票によって決まります。展示はおおむね9月の上旬から11月の上旬まで続きます。

その年ごとにテーマも決められます。2023年は「花と虫 自然いっぱいと案山子」でした。ジャンボ案山子が虫取り網と虫かごを持っていたのは、このためです。

このコンテストが始まったのは1996年です。三十年近く、毎年続いてきたことになります。運営しているのは、村の地域振興公社「あすか夢耕社」です。

案山子は、本来は農具です

念のために書いておくと、案山子はもともと鳥や獣を追うための道具です。

語源は「嗅がし(かがし)」だという説があります。獣の毛や魚の頭を焼いて串に刺し、その臭いで近寄らせない。それが人形の形になっていったというものです。

大谷翔平選手をかたどったジャンボ案山子。赤いユニフォームの胸に ASUKA の文字、足元に小さなイノシシが立つ
2022年のジャンボ案山子、大谷翔平選手。足元にイノシシが一頭ついている

見上げるほど大きな案山子は、実用からはとうに離れています。それでも、田があり、稲が実っているからこそ立つものであることは変わりません。

もっとも、写真の案山子の足元には、イノシシが一頭ちゃっかり立っています。追うはずの相手が並んでいるわけで、そのあたりも含めてこの行事の性格を表しています。

彼岸花が畦を守るために植えられたものであるのと、少し似ています。田の仕事があるから、その上に行事が乗っている。

同じ時期に、同じ場所で

案山子の展示と、彼岸花の見ごろは重なります。9月の下旬がちょうどその時期です。

赤い彼岸花が畦に線を引き、黄金色の稲が実り、そのあいだに案山子が立つ。稲渕がいちばん賑わうのがこの季節です。

逆に言えば、この季節以外の稲渕は静かなものです。案山子が片づけられ、稲が刈られ、冬には稲わらを積んだ「にお」が点々と残るだけになります。

これまでのジャンボ案山子

このページは、2026年のぶんまで載せています。分かっている範囲で並べると、次のようになります。

2026年 高市早苗総理大臣

2025年 みゃくみゃく(大阪・関西万博)

2024年 御陣乗太鼓(能登半島地震)

2023年 笑福亭鶴瓶さん(テーマ「花と虫 自然いっぱいと案山子」)

2022年 大谷翔平選手

次の年には、また別のものが立ちます。何になるかは、その一年が過ぎてみないと分かりません。

見に行くなら

近鉄橿原神宮前駅から周遊バス「稲渕」下車。棚田を見下ろす朝風峠から下りていくと、案山子が次々に現れます。

展示の期間と、祭りの日程は年によって変わります。村の観光案内で確認してください。

案山子が立っているのは農地のなかです。畦に入らず、道から見てください。稲刈り前の時期は、田に入ると本当に迷惑がかかります。

彼岸花の時期は人も車も増えます。細い道なので、駐車の場所には気をつけてください。

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