飛鳥の明日香の里を(明日香村)コラム明日香の春、足元に咲く花 ― そのほとんどは新しい住人

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明日香の春、足元に咲く花 ― そのほとんどは新しい住人

公開日

道ばたや畦に咲く小さな花。名前が分かると散歩の景色が変わります。ただ、その多くは飛鳥時代にはこの村に無かった花です。

春の明日香は、見上げる花の季節でもあります。桜、桃、石舞台のライトアップ。ただ、足元にも同じくらい花が咲いています。

畦の縁、石垣の隙間、駐車場の端。名前を知らないまま通り過ぎている花に、いくつか名前を付けてみます。

ハルジオン

ハルジオンの花。淡い紅色の細い花びらが放射状に開き、中心は黄色
ハルジオン。花びらが糸のように細い

白から薄紅の、糸のように細い花びら。中心は黄色。畦や道端でいちばんよく見かける春の花です。

よく似たヒメジョオンと混同されますが、見分ける手がかりがいくつかあります。

ひとつは、つぼみ。ハルジオンのつぼみは、うなだれるように下を向きます。ヒメジョオンは上を向いたままです。もうひとつは茎で、折ってみるとハルジオンは中が空洞、ヒメジョオンは白い髄が詰まっています。咲く時期も違い、ハルジオンは4月から6月、ヒメジョオンは6月以降です。

この花は北アメリカの生まれで、日本に入ってきたのは大正時代です。観賞用として持ち込まれたものが野に出ました。つまり、飛鳥時代どころか、明治の人も見ていません。

オオイヌノフグリ

草のあいだに咲くオオイヌノフグリ。淡い青の小さな四弁花、中心は白
オオイヌノフグリ。花の大きさは1センチにも満たない

2月の終わりごろから咲きはじめる、小さな青い花です。大きさは1センチに届きません。日が差すと開き、陰ると閉じます。

ひとつの花が咲いているのは1日だけです。朝に開いて、夕方にはしぼんで落ちる。群れて咲いているように見えるのは、毎日別の花が開いているからです。

名前は、実の形が犬のそれに似ているという在来種イヌノフグリに由来し、それより大きいという意味で「オオ」が付きました。花からは想像しにくい名です。あまりの落差からか、星の瞳という別名も使われます。

この花もヨーロッパから来ています。日本で確認されたのは明治のはじめ。いまでは在来のイヌノフグリのほうが見つけにくくなりました。

ムスカリ

枯れ草のあいだに立つムスカリ。濃い青紫の粒のような花が房になっている
ムスカリ。壺のような形の花が下から順に開く

濃い青紫の、粒を重ねたような花。ぶどうの房に見えることから、英語ではグレープヒヤシンスと呼ばれます。

地中海のあたりが原産の球根植物で、日本には園芸種として入ってきました。庭や花壇に植えられたものが、球根を増やし、こぼれ種でも広がります。道端や田の縁で見かけるのは、そうやって出ていったものです。

壺のような形をした花は、下から順に開いていきます。ひとつひとつを近くで見ると、口の縁が白く縁取られているのが分かります。

シバザクラ

シバザクラの接写。濃い紅色の五弁の花と、細い針のような葉
シバザクラ。花の中心が濃く染まる

地面を覆うように広がる、濃い桃色の花。桜と名が付きますが、桜の仲間ではありません。ハナシノブ科の草で、北アメリカの東部が原産です。

花びらは5枚。中心に向かって色が濃くなり、そこに小さなおしべが覗きます。葉は針のように細く、花のない時期は一面の緑になります。

斜面一面に咲くシバザクラ。濃い桃色の花が地面を覆っている
地面を覆うように広がる

斜面に植えられていることが多いのは、見た目のためだけではありません。根がよく張って土を押さえるので、法面の保護を兼ねています。明日香でも、道沿いの土手や石垣のきわで見かけます。

飛鳥時代の人は、何を見ていたか

ここまで4つ挙げて、すべて外から来た花でした。

では、この土地に宮があったころ、人々は春に何を見ていたのか。手がかりは『万葉集』にあります。

「石走る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも」。志貴皇子の歌です。岩を走る水のほとりでワラビが芽を出した、それで春が来たと知る。花ではなく、芽吹きで春を数えています。

花では、スミレが詠まれています。「春の野にすみれ摘みにと来し我れそ野をなつかしみ一夜寝にける」。山部赤人の歌で、スミレを摘みに来たら野が心地よくて一晩寝てしまった、という内容です。

ほかにウメ、サクラ、ヤマブキ、フジ、カタクリ。『万葉集』に出てくる春の花は、いまも山や川のほとりで見られるものばかりです。ただ、道端で目に入る数は、外来の花のほうがずっと多くなりました。

それでも変わらないこと

足元の花の顔ぶれは、この百数十年でほとんど入れ替わったことになります。

ついでに言えば、春の明日香を象徴するような菜の花畑や、秋の彼岸花の畦も、大昔からあった景色ではありません。菜の花は栽培され、彼岸花は畦を守るために植えられたものです。田そのものも、人が作り替え続けてきた地形です。

変わらないものを探すほうが難しい土地なのかもしれません。

それでも、野を歩いて花に目を留め、名前を確かめたり、摘んで帰ったりする。その行為自体は、赤人がスミレを摘みに行った日から変わっていません。花の顔ぶれだけが入れ替わりました。

歩くなら

足元の花を探すなら、甘樫丘のふもとから飛鳥川沿い、稲渕の棚田へ向かう道が歩きやすいです。日当たりのよい土手や、田と田のあいだの畦に集まります。

オオイヌノフグリは2月下旬から4月、ムスカリとシバザクラは4月、ハルジオンは4月から6月。ひと月ずつずらして歩くと、同じ道でも違う花が咲いています。

畦は農地です。道から眺めるだけにして、田のなかへは入らないでください。

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